食のエンターテインメントを提供【KAMADOKI2021・SDGs Studios】#3

今年の5月末に京都府の寺町夷川通りにオープンしたZero Waste Kyoto(ゼロ・ウェイスト・キョウト)

「ゼロウェイスト」をコンセプトに近郊の農家から届けられた野菜や豆類、米、調味料、総菜などを販売している、その背景には…
主宰の植良睦美さんにお話を聞いた。

自分がやり残したことをやり遂げる -次世代のために

以前米系投資顧問会社で働いていた植良さんは、金融の世界でも、2015年に世界銀行がSDGsを掲げて以降、中心的なテーマとなったものの、現実の世界では、金融危機以降の各国の量的緩和政策により膨大な国の借金を抱えた綱渡の状況になる一方、貧富の差の拡大、そして環境の破壊という次世代へ負の遺産を持ち越しているのを仕事を通じて感じていた。さらに、時間なく、短時間での食事を済ませるためにコンビニでお弁当やペットボトルの飲み物を買うこともあるという自分自身の実生活にも矛盾を感じていたそうだ。植良さんの言葉からは、単にSDGsの目標を達成するというよりも、自分たちの無意識な行動でしてきたことによる負の遺産を次世代まで持ち越さないという強い意志が感じられた。京都は、はるか昔から伝来してきた仏教や京文化が根強く、地元の人々は地産地消の考え方が自然であり、環境保護やSDGsに対する意識が高い人が特に多いと考えたことから、京都での出店を決めたそうだ。

昔からの知識を、そして繋がり

Zero Waste Kyotoでは持参したバッグや容器、または店頭で販売されているガラス瓶や巾着袋を購入して持ち帰るシステムで「ムダを減らす」を体現している。その他にも「伝統」や「繋がり」を特に大事にしているそうだ。このお店はもともと地元で愛されていた老舗のケーキ屋「シェラメール」の跡地に建設されたが、扉や棚はリメイクしているもので、昔からあるものを大事にすると同時にムダが省かれている。また、このお店では地元でオーガニックや無添加などにこだわった商品が多く取り扱われており、その間にも生産者の方との関わりが絶えず、時にはコラボ商品も生まれるそうだ。その中で、特に人気があるのが「納豆サブスクリプション」だ。竹とステンレスで作られた弁当箱に、何度も受賞歴のある京都の「藤原食品」の500グラムの納豆が入っている商品だで、箱の形状や質、焼印も何度も話し合ってこだわったそうだ。一般的なサブスクリプションは、定期的に、そして一方的に商品が提供されるが、この納豆サブスクリプションは、最初に納豆入りの容器を購入し、中身がなくなったらお店に向かうという「必要なものを必要なだけ」購入するシステムが売りとなっている。お金も食品も無駄にしないこのサービスに対して予想以上に好意的な声があったそうだ。容器を持ってお店に向かうという、懐かしさ、そして圧倒的な美味しさが人気となっている。その他にも、山田製油のごま油、久在屋の豆腐の量り売り、総菜やイートインスペースもあるのでチェックしてみては。

このお店では、生産者との関わりや、お店作りのためのスタッフ同士での話し合いはもちろん、「必要な分を必要なだけ」買いに来る客ともコミュニケーションが生まれている。現代、どうしても短時間で済ませてしまいがちな「食」を通じて、現代、またコロナ禍で少なくなってしまっている人との関わりや出会いが多く生まれていた。また、今日はどの食品を使って何を作るのかを考えながら、ここでスローショッピングができれば、食のエンターテインメントは存分に発揮されるだろう。一度、自分自身の日々の「食」に向き合ってみるのもいいかもしれない。

これからを担う若者へ

植良さんは、アルバイトとして働く若者を間近で見ていることもあり、若者の素直さや吸収力には驚かされることがよくあるそうだ。それを踏まえ、「全ての情報に踊らされず、自分で判断していくこと」が大事だと話す。インターネットが発達し、フェイクニュースなど本当か嘘か分からない情報が数多く存在している中で、自分で情報を取捨選択しなければならないことは、私たち若者も日々感じているが、このことは食に関しても言えることだそうだ。賞味期限だけを見て判断するのではなく、自分の目や鼻、舌の感度で動物的に判断することも時には大事だと話す。また、「幅広い視野を持つこと」も同様に大事だそうだ。自分だけの凝り固まった意見を持つのではなく、様々な人々と関わり、幅広い価値観に触れることが、変化の大きいこれからの時代には必要だという。これからを担う若者の一員としては、とてもありがたいお言葉をいただくことができた。

今回、Zero Waste Kyotoでは人々の繋がりやコミュニケーションが生まれていて、「食」には今後も新たなものを生み出す可能性があると感じることができた。効率化がうたわれるこの時代に、自分の身体を作るものだからこそ、食品と一度向き合い、Zero Waste Kyotoでスローショッピングをしてみるのはどうだろうか。その際、カバンや袋をお忘れなく。

 


取材先|植良睦美(うえらむつみ)さん
アメリカの投資顧問会社に勤務中、矛盾を感じた経験から、コロナ禍の中昨年春に京都にZero Waste Kyotoをオープン。昔からの知識や文化を大切にしつつ、近隣の店舗と積極にコラボし、関わりや出会いを大事に活動している。

取材者|中島梨奈(なかじまりな)
関西学院大学国際学部3年生。人が毎日欠かさず行う「食」に興味を持つ。京都の魅力とSDGsの「必要な分を必要な分だけ」のコンセプトを掛け合わせた「Zero Waste Kyoto」に魅力を感じ、今回取材をさせていただいた。