“おいしい”から広がるコミュニケーション~ベジサラ舎に並ぶ野菜があなたにとって特別な野菜に ~【KAMADOKI2021・SDGs Studios】#2

京都・西陣の一角にある古民家、ベジサラ舎。
一見すると八百屋のようには見えないこの場所に、「八百屋」と書かれたのれんが揺れている。中からは賑やかな声が聞こえ、入ってみると木の温もりを感じる店内にたくさんの野菜が並んでいる。
今回は、そんな八百屋「ベジサラ舎」の中本千絵さんにお話を伺った。

ここはコミュニケーションでできた八百屋

「ベジサラ舎は野菜を売っているけど、野菜だけを売る場所ではない」。ベジサラ舎では、買い物中の会話が野菜選びのヒントになったり、スタッフとお客さんの情報共有をしたり、何気ない会話からお客さん同士の繋がりが広がっていったりといった、コミュニケーションが生まれてこその八百屋なのだ。

「お客さんはファミリーみたいなもん」と言う中本千絵さんが目指すベジサラ舎は、来た人が元気になって帰っていく場所だ。嫌なことがあってもここへ来ておしゃべりして少しでも明るい気持ちでお店を出ることができる、そんな空気が流れる心地の良い空間が自然とつくられている。

ベジサラ舎のきっかけ

こどもを出産したことでそれまで以上に食に関心を持つようになったという中本さん。仕事を退職し、料理が得意だったことからテーブルコーディネートなどおもてなし料理教室を開催していた。

しかし、中本さんにとって綺麗に飾ってもてなす料理は”違う”と感じたのだそう。テーブルを飾るのではなく、食材本来のおいしさをもっと生かした料理をしたいという気持ちが強かった。同時に、こどもに安心安全の野菜を食べさせたいけれど何が安心安全なのかという知識がないこと感じていた。そこで、道の駅などをまわって食べ歩くようになった。道の駅には、無農薬や自然栽培であることをシールなどで明記した野菜が揃っていた。

そしてある時、おいしい!と衝撃を受けるほどのミニトマトに出会い、これを周りの人にも伝えたいという一心で配達の八百屋をスタートした。このおいしいミニトマトを知ってほしいという思いで始めたため、最初に八百屋で扱った野菜はミニトマト5・6種類だけ。次第にお客さんから「トマトの他にないの?」と要望が出てきた。そこで中本さんは「ミニトマト以外にもおいしい野菜を探そう!」と野菜との出会いを求めて農家さんを訪ねてまわり、”ミニトマト専門”八百屋から”八百屋”になった。

つくるひとと食べるひとをつなぐ

ベジサラ舎に並ぶ野菜は中本さん自身が集荷に回っている。安心安全な野菜を扱うことは前提であるが、中本さんにとっては”無農薬” ”有機栽培”というラベルだけがすべての基準ではない。「まずは”おいしいこと”。そのうえで、農家さんと会ってコミュニケーションが取ることを大切にしている。」と言う。有機栽培の野菜や無農薬野菜といったこだわり野菜はたくさんあり、使われる有機肥料はどこからきたのか、遺伝子組み換え飼料は入っていないのかなどきりがなくなってしまう。まずは食べておいしい、さらにコミュニケーションをとることで農家さんそれぞれの想いを知って野菜を仕入れることができる。そしてそのおいしい野菜はベジサラ舎で農家さんの想いと共にお客さんのもとへ届いていく。

食べると買うの循環

ベジサラ舎には八百屋の隣にすこやか食堂というカフェが併設されている。ここでは、まだ食べられるしおいしいけれど廃棄しなければならなかったB品野菜と言われる野菜たちを、おいしい料理に変身させてお客さんへ届けている。

すこやか食堂は、農家さんや八百屋でどうしても出てしまうロスを減らすことができるだけではなく、ベジサラ舎の野菜を知ってもらうきっかけにもなっているという。対面販売に敷居を高く感じている人でもランチなら気軽に入りやすい。そして、食堂で提供されているメニューはどれも色鮮やかで野菜が輝いている。しかし、どれも手が込んでいるわけではないのだそう。変わった野菜でも定番野菜でも、とにかくシンプルで、家庭でちょっとやってみようと思ってもらえるようなレシピを心掛けている。ここで食べた野菜がおいしかったから買って帰って家で真似してみようというきっかけになること、つまり家族へと広がることが重要なのだ。

おいしいが一番

体は食べるもので作られているから、安心安全で体に良いものを食べたいというのはもちろん。でも、これは無農薬だから、これは体に良い成分だから、と頭で考えて食べても楽しくない。だからこそおいしくて体にもいい安心安全な野菜や食事を提供したいと中本さんは考える。

「おいしいものを食べたら自然と笑みが溢れて、笑顔は一緒に食事をする人にも伝播していく。」”おいしい”を大切にする中本さんにとって「食」とは、コミュニケーションであり、幸せである。

そんな中本さんとスタッフの仲間でつくるベジサラ舎は、「おいしい」から広がるコミュニケーションと幸せが溢れている。
そして、そんな場所がまちにひとつあることが日常の食べることを少し豊かにしてくれる。

 


取材先|中本千絵(なかもとちえ)さん
偶然出会ったミニトマトをきっかけに”おいしい”野菜を探して生産者を訪ねてまわる。2017年、ベジサラ舎をスタート。2020年には、すこやか食堂をオープンした。モットーは「やってて楽しいこと」。現在は周りの八百屋さんと一緒にできる新しい挑戦を考え中。
取材者|豊田真彩(とよたまあや)
立命館大学食マネジメント学部3回生。これまでの”おいしい”経験が食に関心を持つきっかけに。特に小さい頃から野菜がだいすきなことから、野菜の魅力を伝えておられる中本さんに今回取材をさせていただいた。