多様な人との共生は「命」を守り輝かせる【KAMADOKI2021・SDGs Studios】#1

京都を中心に、「はじめての茶道」や「華道」、「着物の着付け」などの活動をされている「京都ジェンヌの会」の中村菜穂さんにお話を伺った。

文化を知ることは自分自身を知ること

京都で生まれ、育った中村さん。周りの環境として、京都といって連想されるような着物や華道、茶道などの伝統文化は身近にあったが、あまり深く関心を持ったり、それらの価値に気づいたりすることがなかった。せっかく「伝統文化が暮らしに溶け込む」京都で生まれ、生活しているにも関わらず、暮らす人が郷土の文化を体現していないことはもったいないと感じたことが初めのきっかけだった。

さらにその感情を強く持ったのは、中村さんが高校1年時にしたオーストラリア留学。海外の都市に触れたことで、初めて日本や京都を客観的に見ることができたそう。京都という町の歴史が長さや深さ、先人が紡いできた豊かな文化を感じた。そして、それらを受け継ぎ、生きているのだと実感した。またその際に「アイデンティティ」という言葉を初めて知り、京都で生まれた者としての誇りや価値を改めて考えるきっかけにもなった。

京都ジェンヌの会の立ち上げ〜こだわるが、囚われないことを大切に〜

社会人になり、歳時記や着物などの由来を理解し、それらを次世代に渡し繋いでいきたいと考える。中村さん自身は祖父母、両親、地域の人たちから暮らしの中で伝統や郷土の町衆が紡いできた文化のことを聞く機会があったが、現在はライフスタイルの変化などで、そのような人も少ない。そこで、自分自身のアイデンティティを知るため、郷土の京都で学び直し、出会い直すことはできないかと考え、女子会という自然体な環境から共感の輪を広げたことが、この京都ジェンヌの会の始まりだった。

「今さら聞けない」と思うような心のハードルを取り除く活動に取り組んだ。「はじめての茶道」や「華道」、「着物の着付け」などを実施。初めてのことであっても体験してもらう機会を開くことで、次世代に繋がり、文化が引き継がれて欲しいと感じているそうだ。これらの会は、老若男女問わず、子どもも一緒に参加できるもので、京都文化へのタッチポイントとして機能した。こだわるが、囚われないことを大切に、緩やかに活動を開始し、継続していった。

主婦の方や文化財修復技術者の方など実に多様なメンバーが参加したため、たくさんの経験や価値観を共有する大変貴重な機会ともなった。自分たちのプロフェッショナルな知識を共有し、互いに学び合えることが、とても意味のあることだと感じたそう。人の多様性を理解することは自分の人間性を高めることにつながることを感じ、「その人のパーソナリティが生かせる場所・活動にしたい」と強く感じた。

中村さんの人生を通して感じた関心や違和感を体現し、行動に移されている姿は本当に逞しく、まさに京都ジェンヌなのだろうと感じる。

 

これらの活動を踏まえ、中村さんの中で、今まで課題意識と活動は「いのち」というキーワードで繋がっていることを感じた。現在では、「命を守る」ことや、「未来の命を輝かせる」ことを軸に活動にしている。具体的には「防災」だ。防災は、誰にとっても、ジェンダーやまちづくり、ダイバーシティに向き合うきっかけを生み出すことができる。防災を通じて「多様な人が生きやすい社会づくり」や、「取り残される人を生み出さない仕組みづくり」ができ、防災はそのような役割を果たしていると感じた。

現在もこの活動を続けており、パンフレット(https://www.wings-kyoto.jp/publish/info/)の発行や、防災週間に伴ったliving kyotoのコラム(https://kyotoliving.co.jp/topics/20683.html)も連載中だ。

多様な人との出会いやコミュニケーションが人を育む

「私がコミュニティをつくる目的は、いわゆる社会課題解決やボランティア活動をすることではありません。今、私たちが持っている疑問を共有し、仲間と”協創”し、学ぶ、そのような場にしたいと考えています。」と中村さん。

近年よく耳にする「エシカル」や「SDGs」の根本は、相手を思いやり、命を大切に扱いながら、適切な行動することだと思う。これらの言葉がトレンド化している中で、日本が昔ながらに持つ価値観を再度呼び起こすことが必要なのだと感じた。

中村さんは、防災の活動に関しても、この話題に耳を傾けてくれたり、多様なものの見方へ共感してくれたり、そのようなきっかけを繋げたいそう。「なぜこの人はこのように考えるのだろうか」や、「その考えの背景には何があるのだろうか」と、白か黒かの話ではなく、相手のyesやnoを「なぜなのか」を考え、ディスカッションすることが大事。お互いを認め合い、生かし合うこと。互いに力を合わすことで、課題解決に進むような、そんな世の中や思考が増えるため、コミュニティ運営を始めとした活動を続けている。

 


取材先|中村菜穂(なかむらなほ)さん
「一般社団法人京都ジェンヌの会」代表・防災士・宅建士。10代の頃からライフワークとして、少年補導委員学生班リーダー、消防団、動物の保護活動など京都の街でチャリティやボランティアに取り組む。京都ジェンヌの会では、命の尊さや文化を大切にする日本に元々あった「足るを知る」サステナブルな価値観や心をこれからの世代と育む。
取材者|一瀬優菜(いちせゆうな)
立命館大学 経営学部 国際経営学科 4回生。京都の魅力とともに「エシカル」や「サステナビリティ」、「多様性」などをキーワードに活動しておられる中村さんに今回取材をさせていただいた。